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Flowers In The Rain~つまらない大人にはなりたくない~

*
体育館内の照明が落とされたようだ。全校生徒らのざわついた声が、
緞帳の向こうから聴こえてくる。
高校最後の文化祭のステージ、僕はグランドピアノの白と黒の鍵盤を
見つめながら、ふうと大きな息をひとつ吐いた。
さあ始めるぞ、本物のロックンロールを響かせるんだ。
緞帳が開きはじめると同時に、僕が合図を送るとドラマーはステッィクで
カウントを取り始めた。
僕は「ガラスのジェネレーション」のイントロを叩くように弾き、叫んだ。
「つまらない大人にはなりたくない」と。

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2011年6月18日、雨の有楽町、東京国際フォーラム。
佐野元春デビュー30周年を記念したファイナル公演初日。
電車に揺られながら、
雨の交差点で信号待ちしながら、
腹ごしらえにと入ったそば屋でビールを飲みながら、
ホール2階席への長いエスカレータを昇るあいだ、
僕は自身の「30年」を振り返っていた。
故郷清水の海、会えなくなった友達、傷つけ別れた女性、仕事、
山梨で出会った人達、家族。
宇宙の誕生や太古の歴史から見れば「30年」は一瞬のこと。けれども僕に
してみれば、やはり長い。
知らぬ間に、僕も「つまらない大人」になってしまったのだろうか。

1:CHANGES(Inst)
2:君をさがしている
3:ハッピーマン
4:ガラスのジェネレーション
5:トゥナイト

2階中央の僕の席からは、元春を中心にステージを俯瞰して見られる。
決して若くないメンバー、決して若くない観客。今夜、この空間で過ごす
数時間の出来事も、それぞれの想い出となり歴史となる。

6:カム・シャイニング
7:コンプリケイション・シェイクダウン
8:99ブルース

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2週間前の放課後の音楽室。女子バンドの演奏が同じフレーズでつかえて
いるのが扉からもれ聴こえている。
「文化祭、この曲に変更したいんだ」渡した譜面さえロクに見ずに
「もう押し迫っているからムリ」とメンバーから猛反対された。
「佐野元春って誰?ギターソロも無いようだし」
口論に近い話合いのあと長い沈黙の時間があり、僕は文化祭への不参加を
告げ、ここに来ることも無くなるんだろうなと思いながら最後に付け加えた。
「今、歌うことに意味があるんだ。高校生最後のステージで歌うから意味
があるんだ。わかってもらえないかもしれないけれど」
女子バンドの練習が終わったようだ。帰りがけにドラムのおかずをシンプル
にしてリズムキープするように伝えなきゃな。
「説明している僕にも、はっきりとはわからない。
でも、この曲にはそんなパワーがあるんだ」
ギタリストである部長が、しょうがないなという感じで、
「わかった、少しだけ演ってみよう」

*
9:欲望
10:ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
11:ジュジュ
(ゲスト:佐橋佳幸登場)
12:月と専制君主
13:レインガール
14:SPIDER CODE(Inst)
15:ヤングブラッズ
16:観覧車の夜

アルバム「月と専制君主」からの数曲は、木のテーブルや陶器のカップが、
時を経て手になじんでくるような暖かく優しい演奏。

*
風だ。ビートに合わせた生徒の手拍子が大きなうねりとなり、
風となって、僕に跳ね返ってきた。ウケている。
おそらくみんな歌詞なんか聴いちゃいない。
僕のボーカルも、走り、フラットする。これは調子のいい証拠だ。
ドラマーがテンポが速すぎるという顔をこちらに向ける。
悪いけど、このままラストまで走るよ。
この風に乗るんだ。
*
17:君を連れてゆく
18:ロックンロール・ナイト

「ロックンロール・ナイト」の時、音楽の神様が降りてきた。
ような気がした。背筋にずわっと冷気が走り、見てはいけないものを
見てしまったような感覚になった。いたんだあ、音楽の神様。

19:約束の橋
20:ヤング・フォーエバー
21:ニュー・エイジ
22:新しい航海

休憩も入れず、エネルギッシュなステージもついに終盤に。
元春、いつになくウロウロとステージ上を歩き回りながら、
「セカンドアルバムに入れようとしたけれど、最後のワンフレーズが
降りてこなくて次のシングルでリリースしました。
20代の前半か、中盤か、忘れてしまったけれど、将来のことも何も
わからなくて、いろんな想いで、小さなアパートメントで書きました。
この曲を見つけてくれてありがとう」
23:SOMEDAY

「東北のファンの方からメールが届きました。この会場にいると思います。
こんなメールでした。今夜は心から楽しみたいです。みんなもそうだろ!?」
24:悲しきRadio

*
文化祭での演奏の反響は大きく、それまで全く喋ったことが無い僕のことを
嫌っているんだろうと思っていた級友に話しかけられたり、知らない女の子
から家に告白電話が有ったり、教師にはさらに目をつけられたりした。
僕は、そんな諸々のことはもうどうでもよかった。
僕は将来のことを考えなければならなかったのだ。
だって僕は宣言したのだ。
「つまらない大人にはなりたくない」と。

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アンコール:アンジェリーナ
最後に元春は「ちゃんと書いてきました」と紙を広げながら、
「僕の音楽を見つけてくれて、そして愛してくれてありがとう」と感謝の
気持ちを述べ、スタッフ、ローディーの一人一人まで観客に紹介した。

*
10代の頃、「つまらない大人」の定義はできなかったけれど、漠然と
その言わんとすることは見えていた。
20代、30代、と社会と深く関わるようになり、見えなくなってしまった。
今ならば理解る。そして宣言したい。
「つまらない大人にはなりたくない」と。
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by rocknrollnight | 2011-06-26 17:28
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