「ほっ」と。キャンペーン

ランナーズ、ハイ!(後編)

(前編からのつづき)
*
正直、スタートの合図は聴こえなかった。周りのランナーが走った
ので、何となく走り出した。
みんなランニングシャツに短パンで軽快に走りだす。
ヒートテックにTシャツを重ね着しているのは自分だけか。
「どうせいつか歩くのだから、行けるとこまで飛ばそう」
という作戦を立てた。実際には未知の距離なので作の立てようがなく、
無計画ということだ。制限時間は70分、昔やっていたサッカーの試合が
35分ハーフだったので、70分間走るという時間の感覚だけはあった。
待てよ?サッカーにはハーフタイムという休憩時間があるのだった。
*
1キロまでは山裾を昇り、その先2キロまでは下ってゆく・・・速い。
みんな速い。老若男女に追い抜かれてゆく。
「皆さ~ん、景色を見ませんか?日本の四季を堪能してますか?
そんなに急いで生きてどうするんですか?がんばらなくてもいいよ」
すでに3キロ地点で、集団に付いてゆけなくなる。
「一緒に走ろう、裏切んなよ」と約束した友の背中が遠ざかる。
沿道の応援に笑顔を振りまく余裕は既にない。自分の生い立ちも
フラッシュバックしないし、亡くなった友のことも思いだす余裕
も無い。呼吸すら規則的にコントロールできない。
ただひたすら、右足を踏み出したら、次に、左足を踏み出す。
その繰り返しだ。右、左、右、左・・・
いざと言う時、自分はあまりにも無力だ。
*
4キロ地点、もうだめだ、歩こうか?
体温も上がり過ぎている。ヒートテックの効果大だ。
さすがヒット商品、ユニクロ偉い。暑いっ。
同時に朝のコーヒーがぶ飲みのおかげで、尿意が襲ってきた。
確か、折り返し地点にトイレがあったはずだ。そこまでは走ろう。
*
折り返し地点、トイレに駆け込み、ヒートテックを脱ぐ。その間、
かなりのランナーに抜かれてしまうが、モラシながらは走れない。
すぐ戻り、給水ポイントで水をもらう。底の浅い紙コップなので、
走りながらでは口にうまく入らず、かなりの量をこぼしてしまい、
結果、モラシたように見えてしまっている。
*
そそのかした、いや、誘ってくれた親友が前方を歩いている。
ひざを痛めたようだ。心配だが、息が苦しく声が出ない。
*
ランナーズハイっていつ訪れるのか?
ランナーズ「ロー」状態から抜け出せない。
残り3キロ、住宅地に入り沿道からしきりに声がかかる。
これだけ見知らぬ他人からエールを送られることってあるだ
ろうか?ふりまく笑顔も作れないのは申し訳ないが、せめて
歩かないようにはしようと誓う。
*
あと2キロ、最後の心臓破りの坂では、2人のスタッフから、
「心臓大丈夫ですか?」と声をかけられる。そんなに苦悶の
表情をしているのか?
ゴールが見えた。
*
若いうちしかできないことがある。
マラソン大会に参加して完走することも、その一つだとは思う。
それよりもきっと大切なこと。
太陽の下「どうだった?」「つかれた~」と、
友と共通の空気、時間を過ごすことだ。
*
(ぜひ、ちびまる子ちゃんのナレーターの声で)
この時点では、翌朝のひざの激痛を知るよしもないのだった。
[PR]
by rocknrollnight | 2011-12-03 16:50
<< 「蒼い夜」 ランナーズ、ハイ!(前編) >>