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佐野元春に一番近い日

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「では皆様、拍手でお迎え下さい」
主催者の声とともに、開け放たれたドアから、
冷たい冬の空気を振りほどいて彼は現れた。
颯爽(さっそう)としている。
思えば、昔から佐野元春は颯爽と登場する。

ドラマーが小刻みなビートで空気を振動させると、
キーボードはクロスワードの枡目を埋めるように
ピッタリとそれに合う音を探り当てる。
佐野は、最初の詩がタイプされた紙に手を伸ばす。
一瞬、佐野の1メートル真正面にいた僕と目が合った。
ウインクされた、と言うのは嘘だ。だけど目で合図された。
「準備いいかい?始めるよ」たぶん空耳だ。
佐野が人差し指を立てると、演奏がミュートされ、空気が張り詰めた。

言葉が走り出す。

*
ある懸念について。
僕を含め、多くの佐野ファンは、ストラトキャスターをかき鳴らし、
ステージ上を駆け回りシャウトするパフォーマンスを佐野に期待する。
「ポエムリーディング」は、その対極に位置する。
マスクをした参加者が「私の咳が迷惑になるから」と後列に着座する。
息をすまし、眉間にしわを寄せて聞かなければならないのか。

*
ドラムから生まれたリズム達が、天井で、本棚で跳ね、浮遊する。
シンセから放たれた音符達が、それを包み込み、交わる。
佐野の言葉は、石のつぶてとなって波紋をおこす。
シンクロと破壊を繰り返す。

時には、自身の胸を叩きながら。
時には、足を強く鳴らしながら。
佐野は躍動する。

カフェの空気が、うねりだした。
観客の頭が揺れている。僕もかかとで床を打つ。
ノレる。

*
「次の題名は・・・
僕が旅にでる理由・・・」

このイベントは、雑誌『SWITCH』の25周年を記念して企画された。
また、佐野自身もデビュー30周年を迎える。
この詩は、まるで、この夜のために書かれたようだ。
感傷的なフレーズに涙があふれそうになる。
ここに引用する許可を誰かくれないだろうか。

*
帰路、新宿から山梨へ向かう列車の中。
何か、人恋しくなり、宛先不明のメールを打つ。

「貴方が旅にでる理由は?」

きっともらった人は困るだろうから、すぐに削除した。
車窓には自分の顔が反射っていた。

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--Date--
2010.02.19
19:30
--Event--
「SWITCH 25th Presents 佐野元春 Spoken Words Live」
--Place--
西麻布、『SWITCH』編集部地下カフェ「Rainy Day」
--Member--
Words. 佐野元春
Dr. 山木秀夫
Key. 井上 艦
一夜限りのプラチナチケットを手に入れた幸運な50名の詩人たち。
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『僕が旅にでる理由』の詩は、
元春の公式ホームページ
→ハートランドからの手紙
→#101の前半部
と、ほぼ同じものと思われます。
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by rocknrollnight | 2010-02-23 19:06