5年ぶりの同窓会

山梨から清水へ向かう深緑の国道52号線は帰省渋滞。
カーコンポに元春、浜省、サザンのCDを繰り返し
突っ込み口ずさむ。今日だけはAKBも嵐も勘弁なんだ。
清水バイパスに入ると、やっと海が開けた。
*
高校を卒業してから何年経ったのか、もはや両手両足指を
どう折っても全く足りはしない、27年・・・。
自分を省みれば、性格はあいかわらず飽きっぽく人見知り激しく、
日々の生活は苦しいし、隣の芝生は青く見えるし、不倫するほどの
甲斐性もないし、ストレスをビールで流し込むし、腹は出るし、
そんなこんなの27年・・・いちいち書くほどのことでも無いな。
*
撮影機材を抱えて、清水マリンビルに定刻に滑り込む。
加齢臭やコロン、溜息や鼻息が充満したエレベーターを降りて会場に。
まず迎えてくれたのは、我がクラス女子幹事の元気な笑顔!!
「変わらないね!」とお互いに第一声。
前回、第1回の開催から5年「変わらない」は、ほめ言葉と勝手に解釈。
参加者は140名、前回よりは減ったらしいが、よく集まったものだ。
今回も頼まれて写真を撮影することになった。事務局サイドよりの撮影代
を支払うからという話を丁重に断る。ノドから手が出そうだったが、
もらったら、お酒飲めなくなるじゃないか!
*
実際には飲んでいるヒマなく、次々とクラス集合写真の撮影となった。
8組ともまとまりが無いのが「らしく」嬉しい。
以下、撮影しながらの感想を箇条書きに。
「こいつ、誰だっけ?」
・・・たぶん向こうもそう思っているだろう
「老けたな~、カッコよかったのに。ただのオッサンやん」
・・・たぶん向こうもそう思っているだろう
「そういえば、このコ、ちょっと好きだったよなあ」
・・・たぶん向こうもそう思ってくれていると嬉しい

*
おそらくは、人生に、現状に、百パーセント満足している奴はいないだろう。
みんな何かしらの問題や不安を抱えているだろうし、勢いで立ち向かえるほど、
心も体も若くはない。なんとか倒れないように踏ん張ってるのだろう。
*
では何が支えているのか。家族であり、友達だ。
同じ時間に、同じ校舎で学び、同じグラウンドを走った仲間。
もっと寄りかかってよかったのだ、同窓生に。
着飾って、カッコつけなくても、大風呂敷を広げなくても。
自然に素のままでいれば良かったのだ、同窓生に。
「いやあ、俺もつらくてさ、聞いてくれる?」って。

それでいいだろ?
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# by rocknrollnight | 2011-08-16 18:37

Flowers In The Rain~つまらない大人にはなりたくない~

*
体育館内の照明が落とされたようだ。全校生徒らのざわついた声が、
緞帳の向こうから聴こえてくる。
高校最後の文化祭のステージ、僕はグランドピアノの白と黒の鍵盤を
見つめながら、ふうと大きな息をひとつ吐いた。
さあ始めるぞ、本物のロックンロールを響かせるんだ。
緞帳が開きはじめると同時に、僕が合図を送るとドラマーはステッィクで
カウントを取り始めた。
僕は「ガラスのジェネレーション」のイントロを叩くように弾き、叫んだ。
「つまらない大人にはなりたくない」と。

*
2011年6月18日、雨の有楽町、東京国際フォーラム。
佐野元春デビュー30周年を記念したファイナル公演初日。
電車に揺られながら、
雨の交差点で信号待ちしながら、
腹ごしらえにと入ったそば屋でビールを飲みながら、
ホール2階席への長いエスカレータを昇るあいだ、
僕は自身の「30年」を振り返っていた。
故郷清水の海、会えなくなった友達、傷つけ別れた女性、仕事、
山梨で出会った人達、家族。
宇宙の誕生や太古の歴史から見れば「30年」は一瞬のこと。けれども僕に
してみれば、やはり長い。
知らぬ間に、僕も「つまらない大人」になってしまったのだろうか。

1:CHANGES(Inst)
2:君をさがしている
3:ハッピーマン
4:ガラスのジェネレーション
5:トゥナイト

2階中央の僕の席からは、元春を中心にステージを俯瞰して見られる。
決して若くないメンバー、決して若くない観客。今夜、この空間で過ごす
数時間の出来事も、それぞれの想い出となり歴史となる。

6:カム・シャイニング
7:コンプリケイション・シェイクダウン
8:99ブルース

*
2週間前の放課後の音楽室。女子バンドの演奏が同じフレーズでつかえて
いるのが扉からもれ聴こえている。
「文化祭、この曲に変更したいんだ」渡した譜面さえロクに見ずに
「もう押し迫っているからムリ」とメンバーから猛反対された。
「佐野元春って誰?ギターソロも無いようだし」
口論に近い話合いのあと長い沈黙の時間があり、僕は文化祭への不参加を
告げ、ここに来ることも無くなるんだろうなと思いながら最後に付け加えた。
「今、歌うことに意味があるんだ。高校生最後のステージで歌うから意味
があるんだ。わかってもらえないかもしれないけれど」
女子バンドの練習が終わったようだ。帰りがけにドラムのおかずをシンプル
にしてリズムキープするように伝えなきゃな。
「説明している僕にも、はっきりとはわからない。
でも、この曲にはそんなパワーがあるんだ」
ギタリストである部長が、しょうがないなという感じで、
「わかった、少しだけ演ってみよう」

*
9:欲望
10:ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
11:ジュジュ
(ゲスト:佐橋佳幸登場)
12:月と専制君主
13:レインガール
14:SPIDER CODE(Inst)
15:ヤングブラッズ
16:観覧車の夜

アルバム「月と専制君主」からの数曲は、木のテーブルや陶器のカップが、
時を経て手になじんでくるような暖かく優しい演奏。

*
風だ。ビートに合わせた生徒の手拍子が大きなうねりとなり、
風となって、僕に跳ね返ってきた。ウケている。
おそらくみんな歌詞なんか聴いちゃいない。
僕のボーカルも、走り、フラットする。これは調子のいい証拠だ。
ドラマーがテンポが速すぎるという顔をこちらに向ける。
悪いけど、このままラストまで走るよ。
この風に乗るんだ。
*
17:君を連れてゆく
18:ロックンロール・ナイト

「ロックンロール・ナイト」の時、音楽の神様が降りてきた。
ような気がした。背筋にずわっと冷気が走り、見てはいけないものを
見てしまったような感覚になった。いたんだあ、音楽の神様。

19:約束の橋
20:ヤング・フォーエバー
21:ニュー・エイジ
22:新しい航海

休憩も入れず、エネルギッシュなステージもついに終盤に。
元春、いつになくウロウロとステージ上を歩き回りながら、
「セカンドアルバムに入れようとしたけれど、最後のワンフレーズが
降りてこなくて次のシングルでリリースしました。
20代の前半か、中盤か、忘れてしまったけれど、将来のことも何も
わからなくて、いろんな想いで、小さなアパートメントで書きました。
この曲を見つけてくれてありがとう」
23:SOMEDAY

「東北のファンの方からメールが届きました。この会場にいると思います。
こんなメールでした。今夜は心から楽しみたいです。みんなもそうだろ!?」
24:悲しきRadio

*
文化祭での演奏の反響は大きく、それまで全く喋ったことが無い僕のことを
嫌っているんだろうと思っていた級友に話しかけられたり、知らない女の子
から家に告白電話が有ったり、教師にはさらに目をつけられたりした。
僕は、そんな諸々のことはもうどうでもよかった。
僕は将来のことを考えなければならなかったのだ。
だって僕は宣言したのだ。
「つまらない大人にはなりたくない」と。

*
アンコール:アンジェリーナ
最後に元春は「ちゃんと書いてきました」と紙を広げながら、
「僕の音楽を見つけてくれて、そして愛してくれてありがとう」と感謝の
気持ちを述べ、スタッフ、ローディーの一人一人まで観客に紹介した。

*
10代の頃、「つまらない大人」の定義はできなかったけれど、漠然と
その言わんとすることは見えていた。
20代、30代、と社会と深く関わるようになり、見えなくなってしまった。
今ならば理解る。そして宣言したい。
「つまらない大人にはなりたくない」と。
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# by rocknrollnight | 2011-06-26 17:28

無題

哀しいニュースは今も届く
明日はどうなっているのか
日々、不安でしかたない
テレビは言う「がんばろう日本」
僕には少しだけ虚しく響く

僕は思う
被災地から遠く離れた場所で

木を切ることをなりわいにしている人は
鋸を手に 山へ向かい

家を建てることをなりわいにしている人は
カンナを引き 釘を打ち

野菜を育てることをなりわいにしている人は
畑を耕し 種をまき

歌を歌うことをなりわいにしている人は
希望の歌を 風に乗せ

病気を治すことをなりわいにしている人は
血をとめ 薬を処方し

お金を数えることをなりわいにしている人は
一円の間違いもなく

国を動かすことをなりわいにしている人は
嘘いつわりなく

漫画を書くことをなりわいにしている人は
子供たちが 笑えるように

そうしたくてもできない人がいる
でも
そうできる人はそうすればいいと思う
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# by rocknrollnight | 2011-03-26 17:20

元春が清水にやってきた!

*
思い出をジグソーパズルのように丁寧に並べてゆくと
僕の故郷、港町、清水が浮かび上がる。小さな町だ。
「本当に元春がここで演るのか」
今夏「第1回清水バンドフェスタ」のスチール撮影で、
このライブハウスに足を運んだ。バスケットコートぐらい
しかないフロアに立ったときの感想だ。
*
定刻に開演。コヨーテバンドに続き、元春が登場。
「近い」
生声も聴こえそうなほどな距離だ。
上手からギター、ドラム、元春、ベース、キーボード。
アルバム「コヨーテ」からテンポの良い曲ばかりが続く。
アルバムのメッセージを伝える、忠実に再現するという
堅苦しさは感じられない。何かを強要したりしない心地
良いビートに、決して若くない(もちろん僕も含めて)
オーディエンスも思い思いに揺れているようだ。
*
来年リリースされるセルフカバーアルバムから
「ジュジュ」
「月と専制君主」
「レインガール」
例えるなら「メインストリートから一本奥まったところに有る、
知る人ぞ知るレストランのメニュー」といった楽曲。
シェフ元春は、まったく別のアレンジに料理した。
*
手持ちのドリンクの氷も解け、会場がすっかり暖まったところで、
ここから一気に加速する。すごいGだ。
「僕は大人になった」
「約束の橋」
「ヤングブラッズ」
「ダウンタウンボーイ」
*
バンドはいったん下がり、アコーステッィクギターに変えた元春。
「ヤァ!ソウルボーイ」
「ヤング・フォーエバー」
あえてアンプラグドで演奏された2曲。なぜこの2曲か。
その意味を探そうと歌詞を噛みしめて聴いてみる。
*
再びバンドが入って、
MC
「この町は港町だよね?僕は港町が好きなんだ。
それは僕が魚座だからかもしれない。
そんな話はどうでもいいんだけれど」
*
「クリスマスタイム・イン・ブルー」
「サムディ」
元春の声すら聴き取れないほどの大合唱。
間奏のハーモニカには鳥肌が立った。
*
そしてアンコール
「アンジェリーナ」
*
この夜の元春はMCのたびに、何度も何度も
「またこうしてみんなの前で演奏できて嬉しい。
今夜は集まってくれてどうもありがとう」
と言っていたのが印象的だった。
礼を言いたいのは、こっちの方だ。今夜のステージは手を
抜けたはずだ。オーディエンスの数も少なく、スケジュール
もタイトだから、それを責める人もいないだろう。
だけど、元春は誠実だった。
髪を振り乱して歌い、その度に汗を放射状に飛び散らせて。
友の言葉を借りるならば、
「変わらないなあ、元春」

2011.11.29

以下は、-------------------------------------
元春HPレポートによせた文章です。

僕の前の人、大声で歌って、すみません。
僕の後ろの人、高く跳ねて、すみません。
僕に「アンジェリーナ」を紹介してくれた友よ、
生きてりゃよかったのに、バカヤロウ。
そして、元春。
「元春~」と何度も呼び捨てに連呼して、すみません。
だって、清水に来てくれて本当に嬉しかったんだ。
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# by rocknrollnight | 2010-12-02 17:24

青い空 白い球

*
ドームは「うわぁ」と大きな歓声に包まれた。
巨人の坂本選手が放った打球は、美しい放物線を描き、僕の座る左中間
スタンドへ向かってきた。
親友とのメールのやり取りの中で「過去に戻りたいか」という件が
あった。僕は「戻りたくない派」だが、小学校4年生のあの夏の
グラウンドになら戻ってみてもいいかなと思った。
*
およそ住宅街に建つにはふさわしくない蔦の絡まった古びた洋館。
錆び付いた門、ひび割れたコンクリートの高い塀には、いたる所に
カタツムリやゲジゲジ、その他名前もわからないキモチ悪い虫が
うごめいている。
人が出入りしている気配は無く、幽霊が棲むとか、病弱な美少女が療養
しているとも言われていた。さすがのガキ大将グループも侵入を計画こそ
すれ、いざ実行には怖じ気づいた。
実際、勇気を振り絞って侵入してみたところで、西洋の鎧はギギギと鈍い
音を立て、二階から聞こえてくる少女のすすり泣く声に、逃げ出したに
違いないが。
*
小学三年の夏、この町に転校してきたばかりで友人も無い僕は、ひとり、
この古びた洋館の高い塀にストライクゾーンをチョークで書き、軟球の
ボールを日が落ちて辺りが暗くなるまで投げていた。
ある時は、仮想後楽園球場で巨人のエースに成りきり、中日打線をノー
ヒットノーランに押さえ込み、ある時は、仮想甲子園球場で大会直前に
怪我をしたチームメイトのために歯を食いしばる優勝投手も演じた。
(僕の妄想癖は、この頃からなんだな)
母子家庭だったから、母は普通に仕事を持ち(当時の母子家庭への社会的
受け入れや世間の風辺りは現代より大変厳しかっただろう)、帰宅後、
夕食の支度をしたから「ご飯ができたわよ」と呼ばれる頃には、かなり
暗くなっていたと憶えている。
*
新しい学校は、海のすぐそばにあり、授業中にも海風がざわざわと松林を
揺らす音が聞こえるほどだった。
勉強は前の学校の方が幾分進んでいたおかげで良くできた。
運動は体が大きかったこともあり、駆けっこも跳び箱も、ドッヂボールも
得意だった。だんだんと僕はクラスに溶け込み、帰り道が同じ方向の級友
とは一緒に帰って遊んだ。缶蹴り、フットベース・・・。
学校の有る日は誰かと遊んでいれば、すぐ夕方になったが、半ドンの日や
母が仕事に出かけた休日は、やっぱり、塀に向かってボールを投げた。
*
そんなある日の夕方のことだ。いつもの様にボールを投げていると、
リーゼントのコワイお兄さん(25歳前後)が、僕に声をかけてきた。
「コントロールいいじゃん」
上下真っ赤のジャージ姿だったと記憶するのは、その後の彼の情熱的な
性格から後付けで、連想しているかもしれない。
「ちょっと、俺の方に投げてみろよ」
「素手で、素手で受けるの?」
「いいから投げてみろよ」
胸の辺りに広げた手のひらに、僕は山なりのボールを投げた。
「もっと速い球だ」
「でも」躊躇する僕に
「思いっきり来い」とコワイお兄さんは手を広げた。
この人は何なんだ?わけがわからなかったが、僕は、へその下あたりに力を
こめて、右腕をムチのようにしならせた。最後は中指の先でボールを押し込
んで投げた。そうすると球の威力が増す。
パチッ!軟球が手のひらに当たる乾いた音が夕暮れの路地に響いた。
「一緒にチームでやらないか?」
僕はそうして町内のソフトボールチームに入団した。
僕をスカウトしたコワイお兄さんは、チームの監督で、大人も子供も彼の
ことを「ミッキー」と親しげに呼んだ。ミッキーは肩を壊さなければ、
かなりの所まで行ったらしい。かなりの所ってどこなのかはわからなかった。
*
4年生になり、ミッキーは僕をセンターに起用した。5、6年生の補欠選手も
いた中で、4年の僕の起用は大抜擢と言えるだろう。
毎晩、グローブに丁寧にワックスを塗って手入れをしてから眠った。
夏の地区ソフトボール大会。僕らのチームは順調に勝ち上がり準決勝を迎えた。
最終回、2点リードのまま迎えた相手チームの裏の攻撃。
僕らの投手は打たれながらも、アウトを重ねて、ツーアウト満塁。
このバッターを押さえれば勝ちだ。たとえシングルヒットでも1点止まりだ。
ボコッ!
打球は僕の守るセンターへ高々と上がった。平凡なフライだ。
定位置より少し前の落下地点に進み「オーライ!」と大きく手を広げた。
ボールは、濃く青い空に白い点となって浮かんで、ぐんぐんと大きくなって
落下してきた。
そして僕のグローブの中央に吸い込まれた。
僕は完璧にキャッチした。
つもりだった。「あっ」と思った次の瞬間、ボールは目の前をかすめて地面で
跳ねた。
グローブの土手や網では無い。スポットで取った感触が確かにあったのに。
ツーアウトだったから、ランナーは一斉にスタートを切り、ぐるぐるとベース
を駆けていて、僕はボールが手につかず、セカンドかショートの選手が
「何やってんだよ!」とバックホームをして・・・
そこから先のことは憶えていない。
ののしられたのか、泣きじゃくっていたのか、肩を抱かれていたのか、
母はいたのか、その夜の献立は僕の好きなカレーライスを作ってくれたのか、
何ひとつ思い出せない。
*
次の週の練習はサボった。その次の週も、そのまた次の週も。
グローブは固くなり、バットは埃をかぶった。
2ヶ月ほど経った頃、ミッキーが家にやってきた。
僕は「会いたくない」と母に言ったが、ミッキーは「会うまで帰らない」と
玄関前に長いこと立っていたので、仕方なく会った。
ミッキーは、僕が口を閉ざしているから、みんなが待っているぞとか、自分の
肩を壊して野球ができない話をしたあとに
「いつでもいいからな、また一緒にやろうぜ」と帰っていった。
*
5年生の1年間は、ボールを握れなかったけれど、6年生になったある日。
よく一緒に帰る友達が「久しぶりに来いよ」と嫌がる僕を誘拐犯のように
強引にグラウンドにひきずっていった。
しばらくは照れくさかった。どんな顔をしていいかわからなかった。
グローブは誰かが貸してくれたのだろう。内野に入りミッキーのノックを
受けているうちに、またやれそうな気がした。
家に帰りその事を母に話すと、新しいグローブを買ってくれると言うので、
僕はボールが飛び出さないように大きめのグローブとワックスを買ってもらった。
ミッキーは僕をファーストにコンバートした。
*
すっかり生ぬるくなったビールを一息に飲み込み、一番健気そうな売り子さんを
呼んで、新しいビールをもらった。
今でも帰郷すると、当時の道を車で走ることがある。
グラウンドは人工芝が引きつめられサッカー場になった。
洋館は分譲されて住宅が建った。
幽霊はどこへ消えたのだろうか。
病弱な美少女は元気にやっているだろうか。
僕をグラウンドに連れ戻した友達は僕のことを忘れていないだろうか。
ミッキーは未だにミッキーと呼ばれているだろうか。
そんな想いをぎゅっと丸めて、見えない塀に向かって、
「さぁ、ピッチャー大きくふりかぶって・・・」。
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# by rocknrollnight | 2010-08-27 12:13