「ほっ」と。キャンペーン

「私とJリーグとスタジアム」エッセイ

照明に浮かび上がった緑色のじゅうたんに、
選手が散らばってゆく。

「ねえママ、前で見てきてもいいでしょう」
メインスタンドの階段を駆け下りてゆく少年の
背中に「気をつけるのよ」とママが声をかけた。
いや、妻だ。正しくは元妻。

起業に失敗した私が家族と別れた時、生ま
れたばかりの息子との面会も禁止された。
だから、息子はすぐ後ろの席に座った私の顔
を見ても父とは知らない。

「サッカー好きなのか?」
「あなたに似たみたい」
一年に一度、稼ぎと一緒にチケットを送ると
妻は息子と、スタジアムに足を運んでくれた。

膠着した試合、後半ロスタイムにエースの
ゴールが突き刺さった。
「やった!やったね、パパ!」
えっ?
「あっ、ばれちゃった」息子が舌を出した。
歓声が鳴り止まないピッチは、涙で滲んで
きらきらと輝いていた。

***
「私とJリーグとスタジアム」エッセイ募集
落選(涙)作品です。
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# by rocknrollnight | 2009-09-03 12:38

ちいさな船

『ちいさな船』

海の見下ろせる 古いレストラン
「パパ、聞いてるの?」と 子供らの声

あれは二十歳と少し 記録的猛暑
ちょうどこの席で 彼女と別れた

  若すぎた二人の生活( くらし )は
  地図のない航海のよう
  さざ波にさえも 揺らめいた
  ちいさな船


水面を反射した 夏の欠片( かけら )が
彼女の頬つたう 涙で跳ねた

「今日のパパ、変よ」 妻が微笑む
「なんでもないさ」と コーヒー飲みこむ

  若すぎた二人の生活( くらし )は
  地図のない航海のよう
  青春という海に 揺らめいた
  ちいさな船
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# by rocknrollnight | 2009-05-26 12:37

ボクと清志郎と、時々、吉川

*
この雨にやられてエンジンいかれちまった
俺らのポンコツ とうとうつぶれちまった
         『雨上がりの夜空に』

「ウィ~ッス」
また今日も、呼んでも無いのに吉川は来た。
どうでもいい男なので「きっかわ」でも「よしかわ」でも
かまわないが、一応「よしかわ」だ。
坊主頭に、学生服を不良っぽくルーズに着ている。
「ウィ~ッス」
「部活中なんだけど。帰宅部は去れ」
放課後。音楽室は先輩バンドが練習しているので、
後輩の僕らは楽器置場の埃っぽい部屋で、各人が
それぞれのパートを練習している。
僕は買ったばかりのストラトを抱えてはいるが、
窓の外、下校中の他校の女子生徒ばかり見ている。
「そんな冷たい態度しないでよ。お?ギター買ったの?」
「お前が来るとフ~キが乱れる。ギター触んなよっ」
「いいじゃね~かよ。
この雨にやられて~エンジンいかれちまった~」
イカレてるのは、お前の顔と頭だろ。まったくRCなんて
どこがいいんだ。単純なコードで騒いでるだけだ。

*
昨日は車の中で寝た あの娘と手をつないで
市営グランドの駐車場 2人で毛布にくるまって
              『スローバラード』

「何コレ?」
吉川の部屋。見栄っパリの洋モクの煙が充満している。
「何コレ?」と僕はもう一度、尋ねた。
「何って、親父の部屋からくすねたエロ本」
バカ!じゃなくて
「今、かけてるレコード。RCでしょ?」
「スローバラード。カーラジオから~」
「うるさい!お前が歌うんじゃない!黙って聴け」
何コレ?このせつない感じ。これがRC?

*
Woo 授業をさぼって Yeah 陽のあたる場所にいたんだよ
寝ころんでたのさ 屋上で タバコのけむりとてもあおくて
                『トランジスタ・ラジオ』

佐野元春や糸居五郎のラジオから、最新のヒットチャートや
スプリングスティーン、ビリージョエル、ビートルズ、R&R、
ブリティッシュロック、パンクロック、と何でも聴いていた僕は、
RCサクセションの、忌野清志郎の音楽、メッセージを理解する
ようになった。理解するなんて言葉、似合わないだろう。
感じればいいんだゼ、Baby。
学校の屋上でタバコをふかしながら、尋ねた。
「吉川、卒業したらさあ、どうすんの?」
「あ~そんなことより、セッ○スしたいなあ」
「お前、そればっかりだな」
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# by rocknrollnight | 2009-05-10 12:36

「おつかれさまでした」と彼女は満面の笑みで

*
僕の勤め先は山梨ローカルのマスコミで、ひとつの建物の中に
新聞社や放送局が入っている。
土曜日の夕方には生放送で、県内の情報を電波に乗せている。
情報番組といっても、ニュースみたいな堅苦しいものではなく、
グルメや行楽など、季節に応じた身近な話題を紹介していて、
スタジオセットも居間を模している。
家族が茶の間で、一家だんらん過ごしているシチュエーション。
おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、
子供は、中学生のお姉ちゃんと小学生の弟がいる。
おばあちゃんと子供は素人で、あとは名の通ったタレントさんが
演じている。

*
ちょうど本番前のリハーサルが終わった時間だろうか。
スタジオ近くを通りかかった時、お母さん役の女優とすれ違った。
「こんにちは」と僕が挨拶をすると、
「おはようございます」と返された。
放送局のルールで、仕事入り(前)の時は「おはようございます」と
挨拶をすることを知ってはいたが、その時は、
「こんにちは」って返せばいいのに、ギョーカイぽくってイヤだな
と感じた。

*
番組の方はというと、生放送。アクシデントは少ないが、
時間を繋いだり、お父さんやおじいちゃんのアドリブに対応したり、
子役のフォローをしたりと、お母さんの役どころはかなり重要だ。
彼女はまるで実在の母親のように、子供の面倒を見て、笑顔で暖かい
雰囲気を番組にもたらしていた。
今にして思えば、アットホームな番組の方向性を作ったのは、
彼女の貢献が大きいと思う。

*
ある夏の夕方、僕は外の写真撮影の仕事から帰ってきた。
暑い一日だった。シャツには汗が塩を吹いたあとが白く残り、
両肩に、くいこむほどの機材を抱えていた。
彼女は番組終わりで、玄関から出てゆくところだった。
僕は疲れていたが、道を譲った。すると、
「おつかれさまでした」と彼女は満面の笑みで声をかけてくれた。
その瞬間、僕は、清水由貴子さんのファンになった。
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# by rocknrollnight | 2009-04-22 12:34

浜田省吾ベストCD作成にあたって

高三の夏休み「海の家」の呼び込みのバイトをした。
県外ナンバーの車に乗る海水浴客を呼び込むのだ。
「海の家」はいくつか隣接していて、隣の呼び込みには、
負けてはいけない。
僕の服装はというと、白いTシャツにブルージーンズ、
バンダナにグラサン、浜省ファッションである。
まあ、ファッションにかけるお金が無いからバイトして
いるわけで。
隣の呼び込みのニイチャンはというと、やっぱり浜省
ファッションである。やがて学校は違えど同級生と判り
意気投合し、バイトのあと喫茶店に寄ったりした。
彼は「バイクが欲しくてさ、お前は?」
「バンドのスタジオ代と新しいギターも欲しいな」
やがて夏は終わり、海の家は取り壊され、それ以来、
彼とも会わなくなった。僕は楽器店のウインドウに
光っていた白いストラトキャスターを手にしたから、
彼もバイクを手にいれたことだろう。

年月が経っても色褪せない浜田省吾の音楽を聴くたび、
恋やギターに夢中だったあの夏の日の、そう、
バイト帰りに、オーダーしていた喫茶店の
甘ったるいアイスカフェオレを想い出す。

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仕事に生活にちょっと疲れていた僕は、深夜、浜田省吾の
CDを引っぱりだして、好きな曲を並べはじめた。
まとめてみるとCDで2枚にもなった。
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# by rocknrollnight | 2009-03-24 12:32