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「私とJリーグとスタジアム」エッセイ

照明に浮かび上がった緑色のじゅうたんに、
選手が散らばってゆく。

「ねえママ、前で見てきてもいいでしょう」
メインスタンドの階段を駆け下りてゆく少年の
背中に「気をつけるのよ」とママが声をかけた。
いや、妻だ。正しくは元妻。

起業に失敗した私が家族と別れた時、生ま
れたばかりの息子との面会も禁止された。
だから、息子はすぐ後ろの席に座った私の顔
を見ても父とは知らない。

「サッカー好きなのか?」
「あなたに似たみたい」
一年に一度、稼ぎと一緒にチケットを送ると
妻は息子と、スタジアムに足を運んでくれた。

膠着した試合、後半ロスタイムにエースの
ゴールが突き刺さった。
「やった!やったね、パパ!」
えっ?
「あっ、ばれちゃった」息子が舌を出した。
歓声が鳴り止まないピッチは、涙で滲んで
きらきらと輝いていた。

***
「私とJリーグとスタジアム」エッセイ募集
落選(涙)作品です。
by rocknrollnight | 2009-09-03 12:38
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